親に泣かれても出版社では働くな!? 編集志望者が知るべき出版業界の真実

どうも、石黒です。

 

自分は30代前半にしてすでに3社を経験してきた「転職ジプシー」なのですが、最も大変だったのが2社目に勤めていた某有名出版社のグループ会社でした。

どのぐらい大変だったかというと、最終的に心身ともにズタボロになり、4か月の休職の後に退職する運びになったほどです。。。

 

入社当初は、「編集者こそが情報化社会に必要とされる21世紀の職業だ!」と意気込んで仕事に励んでいました。

しかし、出版業界独自のルールや制度の縛りがあまりにも厳しく、徐々に心身を蝕むことに・・・。

「親に泣かれても」は多少大げさだとしても、正直他人におすすめできる仕事ではないと本気で思っています。

 

今日はそんなあまり知られていない出版社の裏側について、あくまで個人の経験談として書いていきます。

ちなみに、かなり守秘義務にうるさい会社だったこともあり、基本的に会社名などの固有名詞は出てきません。

期待されていた方はすみません。

 

「編集志望者が知るべき」というタイトルにはなっていますが、出版業界の裏側を知りたい人にも読んでもらえれば幸いです

「自分が作りたい本」なんて出せるはずがない

出版社で編集者として働くにあたって必ず覚えておいてほしいことが一つだけあります。

それは、自分が企画した本なんて出せないということです。

そんな夢のようなことできる編集者は一握りです。

平たく言えば、ツイッターで「編集者」を自分で名乗って周りからも能力が認められていれるレベルの人でないと、自分の出したい本は出せません。

まあ自分の場合は少し特殊な出版の形態だったので、「自分が作りたい本」が出せる可能性はほぼゼロでした(後述)。

 

そもそも、出版社の編集者といっても、担当するジャンルは様々です。

雑誌など定期刊行物の担当になったら、当然一冊の本を作るということはできません。

毎月〆切に追われながらライターを急かして原稿を書かせたり、印刷間際にデザイン事務所に泊まり込んだりと、もはや頭脳労働とは呼べない仕事が待っています

 

運よく単行本を出せる部署に入れたとしても、「自分の企画」への道のりは果てしなく遠いです。

同業者から聞いた意見をまとめると、どんなに少なく見積もっても入社から5年は会社が出したい本や先輩が立てた企画をやらないといけません。

そして、出版業界が構造的にかかえる“とある事情”によって、「作りたくない本」どころか「出したいと思わない本」を編集者は作り出すことになってしまいます。

出版社が駄本を生み出す元凶は「返本システム」

書店に本を流通させる出版社にとって、本は「出版しなければいけないもの」です。

結構ややこしい話なのですが、順を追って説明します。

 

まず、出版社は「取次」という書籍専門の卸の会社に書籍の販売を委託します。

そして、取次は出版社から委託された冊数と売れ行きの予測をもとに、全国の書店に書籍を割り振っていきます。

ちなみに、取次が割り振りにしたがって書店に書籍を送ることを配本といい、その計画を配本計画と言ったりします。

つまり、出版社の持ち物である書籍を「置いてください」と取次から頼まれて場所を貸しているのが書店なのです。

売り上げについては、本が一冊売れると、書店、取次、出版社に決まった取り分で分配される、という仕組みになっています。

すでにかなりややこしいですね・・・。

とりあえず、この3社の連携ないと出版社は自社の本を書店に並べることができないのです。

 

ただ、もちろんですが書店に並んだすべての本が売れるわけではありません。

売れなかった本は取次に、そして出版社に返本されます。

実は、本を「出さなければいけない」という状況は、出版社と取次の間でおこなう返本の“歪んだ仕組み”によって生み出されているのです。

 

その仕組みについて、具体例を挙げて説明します。

たとえば、まず出版社がある書籍1000冊を取次に卸したとします。

1000冊というとかなりの分量ですから、取次は自社の倉庫にそれを一旦保管し、配本します。

配本からしばらくたち書店で本が売れなくなってくると、書店は取次に書籍を返します。

仮に500冊の本が取次に返ってきたとします。

この取次は、出版社にこの500冊の本を返本するわけですが、そのときに出版社は別の(主に新刊の)本を500冊取次に委託しなければいけないのです。

 

なぜそうなっているのか、実は自分でも100%分かっているわけではありません。

ただ商売として考えてみると、そもそも最初の1000冊を取次に卸した際に、なぜ金銭の授受がまったくないのか考えてみるとある程度見えてきます。

1000冊は例ですから、実際にはもっと大量の本を取次に卸すときにお金がかからないのは、つまり書籍そのものをいわば「担保」にしているのです。

委託販売を依頼するためにお金を払うのではなく、本で支払っているといってもいいでしょう。

 

だから出版社は、取次から戻ってくる本と相殺するために新刊本を出し続けなければいけません。

このような仕組みだから、「出したくない本でもとにかく出さなきゃいけない」というありえない状況が起こりえるのです。

 

出版のスケジュールは発行1か月前などに確定しますが、少しでも遅れて取次からの返本と相殺する分の本が出なければ大変なことです。

大変なことというか、そんなことは「あってはならない」とされています。

 

この状況に原稿を上げてこないライター、連絡が取れないデザイナー、そして絶対に無理しない印刷所などが絡んでくるともう大変です。

思うように制作が進まないのに、出版日だけが矢のような速さで近づいてくる・・・。

このあらゆる関係各所からの板挟みが、本当に辛かったです。

 

とにかく、こういったしがらみから出版が「決まってしまっている」ので、どんな本でも出さなければいけないという状況になりえるのです。

あっという間に去っていく編集者たち

自分が勤めていた出版社は、とにかく人がすぐいなくなる会社でした。

社員数100人ほどの会社でしたが、月に3~4人は辞めていました

もちろんその分、どんどん新しい人も入ってきてはいましたが・・・そうやって入ってくる新しい人が1日で辞めることも珍しくありませんでした。

今の会社に入った当初、人数が少ないとはいえ誰もやめない月があるとビックリしていたのを思い出します。

相当前の会社に毒されていたのだと思います(笑)。

 

もちろんそんな会社にくる人材のレベルは察して頂ければと思います。。。

これは自分の勤めていた会社に限らないことですが、編集者という職種は転職市場で明らかに足りていません。

しかし、足りていないなら高給というわけではなく、たいていの場合経験不足を理由に薄給で大量の本を担当させられます。

そうやってますます編集者がつぶれていく、という悪循環に陥っていました。

企業出版という名の産業廃棄物

先ほど少し書いた、自分が少し特殊な出版社に勤めていたという話をここでしたいと思います。

 

自分が勤めていたのは「企業出版」という、企業からお金をもらって本を出版する専門の会社でした。

書店でやたらと企業名やクリニック名が押されている本を見かけたことはありませんか?

そういった本のすべてが企業出版だとは言いませんが、目安6~7割はおそらく何らかの形で企業がお金を出していると思います。

 

ちなみに私が勤めていた会社は、テレアポから営業をかけて企業やクリニックから契約を取ってくるバリバリの営業会社でした。

ノリも体育会系で、テレアポノルマに営業ノルマ、契約件数にもノルマがあるほどでした。

ノルマで本が出るなんて、夢見るうら若きピュアな編集志望者には絶対に聞かせられない話ですね・・・。

はっきり言って、突然携帯に電話がかかってくる不動産投資の会社と何ら変わらないという印象です。

(実際不動産投資の会社から転職してきている人もいました)

かなりゴリゴリの営業をかけて、法的に問題になったことさえありましたし。

 

ちょっと核心に迫ってしまってそろそろやばい感じなので、この話はここまでにします。

すみません。

喫煙者が多く、飲み会も多い

これも出版業界が古いと思ってしまう原因の一つなのですが、編集者の半数近くが喫煙者でした。

「いまどき?」と入社当初戸惑ったことを覚えています。

これがギョーカイなのか、とも思いましたが、それでテンションが上がったりはしませんでしたねー。

 

加えて、飲み会も多いです。

多いというか、毎日終わったら飲みに行くという感じでした。

強制されるという感じではありませんでしたが、飲み会に行かないと疎外感を感じるほどにはたくさん開催されていました。

吸わない、飲まないという人がなんとなくマイノリティになってしまうのは地味につらいと日々思っていました。

編集がやりたいならWEBが絶対におすすめ

これでもかというぐらい出版社をディスってしまいましたが、それでも編集者になりたい人がたくさんいるのは知っています。

そんな無謀な(勇敢な)人には、WEB系メディアの編集者がおすすめです。

 

「いや、自分はどうしても紙の本を作りたいんです!」という熱い人の気持ちは痛いほどわかります。

自分も紙の本の価値はわかっているつもりです。

人間の歴史は紙の本の歴史です。

それを次世代につないでいく仕事の尊さは、他に代えがたいものがあります。

脳科学的に紙の本のほうが記憶に残りやすいという説も信じていますし、いまだに漫画を除けば電子書籍は購入しません。

 

ただ、これまで述べたような出版社の惨状を優秀な人材は見抜いています

だから、優秀な編集者は間違いなくWEB系の会社にいます

妻の知人にWEBメディアの編集長がいますが、私見ですが自分が見てきたどんな編集者より優秀です。

彼は原稿をマクロとミクロで的確に見定める目とどこにでも足を運ぶフットワークで、若くして中堅WEBメディアの編集長を務めています。

やはり継続的に仕事ができない厳しい環境ではキャリア形成なんてできないと、優秀な人材は見抜いているのです。

 

よっぽど優秀な編集者が集まっている出版社であればもしかしたら状況は違うかもしれませんが、私の考えではやはりWEBがおすすめです。

自分もライター職ではありますが、現在のWEB系ベンチャーに転職してかなり安心して仕事ができるようになりました。

あと、ぶっちゃけお給料も月給ベースで1.5倍ぐらいになりました。

結局のところお給料はその人の能力よりも、その人が働いている業界が儲かっているかそうでないかに比例してしまいます。

そう考えると、しっかりお給料をもらいながら長くキャリアを積めるWEB業界に入った方が、結果として編集者としては長くやっていけるのです。

 

もちろん時と場所次第で状況は変化しますし、いろいろな考えがあるのも十分承知しています。

ただ、自分が生身で経験したあの大変さを伝えることで、少しでもあなたのキャリア形成に良い影響を与えられればこれ以上に嬉しいことはありません。

 

それでは、またお会いしましょう。